非常識な本質
ヒト・モノ・カネ・時間がなくても最高の結果を創り出せる
水野和敏 著
私の本職は、クルマの開発だが、1989年から95年まで日産子会社のレーシングチームで畑違いのレース活動をやっていた。
好きでやっていたのではなく、突然の異動だ。
当初は、完全に落ち込んだ。
メーカー選手権のレースで、当時の日産が実行していたのは、誰もが常識で考えることだった。
つまり「ヨーロッパの一流レーシング会社に作らせれば、良い成績が残せるはず」というものだ。
そんなバラバラで、負け癖がついたチームに飛ばされた私は、社内の抵抗を覚悟の上で「常道」とはまったく違うことをすることにした。
まず「レースで勝つための本質は何か」を徹底的に考えた。
具体的には、レース監督、車両開発責任者、サーキット技術責任者という、本来3人の責任者を1人で担うことにした。
短期間で結果を出すためには、3人がバラバラでは非効率だからだ。
次に、予算もチームも、従来より大幅に小さくした。
普通は大きくするところだが、満たされた「ヒト・モノ・カネ・時間」は組織を崩壊させるという信念を持っていたのだ。
効率のいい仕事をするには、資源は徹底的に絞り込むべきだ。
そう考えた私は、予算を通常の4分の1以下にし、ヒトも通常250~500人のところを50人に絞った。
人数が減れば、1人当たりの仕事量は増えるが、各スタッフの仕事の権限は5倍に増える。
その結果、自らの考えで開発、実験に取り組み、レースに臨むことになると考えたからだ。
「思考の盲点」という言い方がある。
日頃から「こういう時には、こうすべき」という常識に沿って仕事を続けていると、仕事そのものの本質や、やっている意味を見失ってしまうのだ。
要するに、考える因子がなくなり、仕事の「何のために何を」が見えなくなるのだ。
結果的に、自分の仕事に疑問を抱かなくなり、惰性でこなしていくようになるのだ。
しかし、仕事は、物事の本質を見極めて取り組むべきだ。
それができれば「ヒト・モノ・カネ・時間」は半分で済むようになる。
そして、結果は倍になる。
企業がやってきた常識に捉われず、非常識と思える本質を追求したからこそ、ヒト・モノ・カネ・時間をかけずに最高の結果を生み出せたのだ。
この本質を理解すれば、世界最強の仕事術が見てくる。
そのためには、常識を突き放すことだ。常識の壁をぶち壊した先にこそ、本当の自分の希望が見つかるのだ。

