稲盛和夫の実学 要約

稲盛和夫の実学―経営と会計

稲盛和夫 著

 

本質追求の原則

原理原則に則って物事の本質を追求して、人間として何が正しいかで判断する。

誰から見ても普遍的に正しいことを判断基準にし続けることによって初めて真の意味で筋の通った経営が可能となる。

一般的に認められている適正な会計基準をむやみに信じるのではなく、経営の立場から「なぜそうするのか」「何がその本質なのか」ということをとくに意識する必要がある。

キャッシュベースで経営する。
【キャッシュベース経営の原則】

お金の動きに焦点を当てて物事の本質にもとづいたシンプルな経営を行うことを意味する。

資産か、費用か

経営はあくまで原点のキャッシュベースで考えるべきである。

あるものを資産として残すのか費用として落すのか、経営上これによって大きな違いが出る。

土俵の真ん中で相撲を取る。

土俵際に追い詰められ苦し紛れに技をかけるから、勇み足になったりきわどい判定で負けたりする。

それよりもどんな技でも思い切ってか掛けられる土俵の真ん中で、土俵際に追い込まれた緊張感を持って勝負を掛けるべき。

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一対一の対応を貫く。
【一対一対応の原則】

伝票操作ないし簿外処理が少しでも許されるということは、数字が便法によっていくらでも変えられるということを意味しており、極端に言えば企業の決算などは信用するに値しないということになる。

その結果、社内の管理は形だけのものとなり、組織のモラルを大きく低下させる。

数字はごまかせばいいということになったら、社員は誰もまじめに動かなくなる。

一対一の対応を徹底させると誰も故意に数字を作ることが出来なくなる。

伝票だけが勝手に動いたり、物だけが動いたりすることはありえなくなる。

モノが動けば必ず起票され、チェックされた伝票が動く。

こうして数字は事実のみをあらわすようになる。

筋肉質の経営に徹する。
【筋肉質経営の原則】

固定費の増加を警戒する。

原材料費などの操業度に連動する変動費を下げるだけでなく、固定費を一定もしくは出来るだけ下げて利益率を高める。

損益分岐点を下げていき、結果として利益を増やす。

実際に経営を行う際には社員に固定費の増加を警戒することの意識が十分に理解されていないとそれが社員の事業拡大や生産性の向上への意欲を低下させてしまいかねない。

 

投機は行わない。

世の中のうごきに煽り立てられると、それに逆らって自分の意思を貫くということは難しいかもしれない。

しかし、多くの社員に対して責任を負う経営者は、他人を見てそのまねをするのではなく、あくまでも自分の中にある原理原則や行動の規範に従うべきである。

時勢に付和雷同し、流されるような経営をしてはならない。

投機とはゼロサムゲームといわれるように、基本的に誰かが他の者の犠牲の上に利益を得ること。

だから、もし投機的な利益を得たとしても、それは世の中に対して新たに価値を作り出したことにはならない。

予算制度は合理的か?

使う分だけを当座買いすれば高く買ったように見えるが、社員はあるものを大切に使うようになる。

余分に無いから倉庫も要らない。

倉庫が要らないから、在庫管理も要らないし在庫金利も掛からない。

これらのコストを通算すれば、そのほうがはるかに経済的。

完璧主義を貫く。
【完全主義の原則】

マクロとミクロ

企業のトップとして本当に自分の思うとおりに経営をしていこうとするのなら、足繁く現場へ出て、現場の雰囲気、現場のことを知らなければならない。

そこからでなければ帝王学も生きてはこない。

マクロだけでなく、ミクロも分っていなければ、経営者は自由自在に会社を経営することは出来ない。

厳しいチェックでパーフェクトを目指す。

経営において責任ある立場の人々が自ら完ぺき主義を貫くように肝に銘じていれば、資料の中の辻褄の合わない部分や数字のバランスが崩れているところに鋭敏に注意がいくようになるはずである。

ダブルチェックによって会社と人を守る。
【ダブルチェックの原則】

人に罪をつくらせない。

社員に罪をつくらせないためには、資材品の受取、製品の発送から売掛金の回収に至るまですべての管理システムに、論理の一貫性が貫かれていることが必要。

個々の管理者のご都合主義によって、そのシステムの一貫性が損なわれるようではわずかな管理者の判断ミスが、やがて、大きな問題へと発展してしまう。

ダブルチェックシステムの具体的な有り方

入出金の扱い

お金を出仕入れする人と、入出金伝票を起す人を必ず分けることが原則。

支払いはあくまで伝票に基づいてであり、自分の意思や判断によるものではない。

支払いが必要な者は、必ず記載内容を正確に記入し、必要な証拠書類を付して伝票を起し、支払担当者に支払いを依頼しなければならない。

現金の取扱い

小口現金を扱う場合は、毎日の〆において現金の残高が伝票から作成した残高表と一致することは当然である。

〆につじつまを合わせるというのではなく、すべての時点において、現金の動きと伝票の動きが合致していなければならない。

現金が動いている状態で確実なチェックが担当者以外の者によってされなければ、万が一問題が発生したとき、その原因を見つけ出すのが容易になり、担当者を守ることになる。

購入手続

要求部門は必ず購買担当部門に対する購入依頼伝票を起して、購買担当から発注をしてもらうというシステムにすべき。

要求元が業者に直接電話などで依頼したり、値段や納期の交渉をすることは禁じなくてはならない。

ダブルチェックに基づく管理システムを崩さない為にも必要であり、業者に対する確実な支払を保障することになり、さらに、業者との癒着などの問題を未然に防ぐことになる。

売掛金、買掛金の管理

営業は通常の営業活動は勿論のこと、売掛金の入金まできちんと責任を持つというのが原則である。

売掛残高の管理は、別の営業管理という管理部門が行い、残高の明細を営業に報告して契約通りの入金を促すとともに、滞留しているものについてその原因と対策を明確にし早急に解決するよう指示する。

買掛金についても、発注部門の検収に伴う買掛金の計上および買掛金残高の管理は購買部門が行い、買掛金の支払は本社経理に集中させて管理させる。

一回に取り扱うお金は微々たる物かもしれないが、それもたまれば大きな金額になる。

さらに何年もそのまま一人の担当者に任せておけば、それは大変な金額になる。

些細に見えることであっても、お互いにチェックできるよう必ず二人で金額を確認すべき。

ダブルチェックの原則は、金額の大小にかかわらず必ず守らせる。

採算の向上を支える【採算向上の原則】

採算の向上というものは、経営を管理する為の管理会計の役割であり、企業の業績と財務状態を正しく外部に報告するための財務会計とは性格を異にしている。

管理会計も財務会計も経営者にとっては等しく経営に必要な会計なのであり、経営者は管理会計が財務会計の決算にどう関連しているのかを正確に把握しなければならない。

時間当たり採算と会計との関連

直接サービスを提供する工場や事業所の総務、人事、資材、経理などの間接部門の費用も、「共通費用」として各部門が納得出来る方法で負担することになる。

この結果、間接部門のメンバーは自分達が他の部門の収益によって支えられていることが良く分り、出来るだけ経費を切り詰め、より効果的、効率的に他部門に対するサービスを提供しようと努める。

一方で、総務、人事、資材、経理などの管理部門の経費は他部門に負担させることはしない。

本社管理部門は、その業務上の管轄化にある事業所の間接部門を通して他部門にサービスを提供するが、事業所の他部門と日常的な接触を持たないため、直接に影響を及ぼすことが出来ない本社経費は他部門に負担をさせない。

費用を実際に負担または分担すべき部門に対して、経費移動と呼ばれる費用の付け替えを行う。

この経費移動は、同一事業所のみならず、全社をまたがって行われる為、事務処理は増えるが、あらゆる処理を公正、公平に行うことによってのみ、組織のモラルや活力は維持される。

時間当り採算制度は魂を入れないと生きない

技術力にしても経営管理システムにしても、人の心をベースにした経営風土があって初めて機能する。

どんなにすばらしい技術を開発しても、どんな合理的な経営管理システムを駆使しても、会社や社員に魂を吹き込むのは、やはり経営者でなければならない。

時間当たり採算システムを運用するに当たっても一番大切なことは、経営者が社員から信頼されていることであり、そのような経営者が自ら現場に行き、現場で担当する人たちに直接仕事の意義や目標などを話していくことなのである。

透明な経営を行う
【ガラス張り経営の原則】

公明正大な経理

お金を扱い、会計処理を行う経理部門自らが徹底して清廉潔白であり、かつフェアであることがもっとも重要である。という考え方を浸透させなくてはならない。

社内に対するコミュニケーション

経営は幹部から一般社員に対してまで透明なものでなければならない。

トップが何を考え、何を目指しているかを正確に社員に伝えること。

社員が会社全体の状況や目指している方向と目標、また遭遇している困難な状況や経営上の課題について知らされていることは、社内のモラルを高めるためにも、また社員のベクトルを合わせていくためにも不可欠なことである。

経営のモラルと会計の有り方

一つ一つのモノの動きと伝票処理とが明確な対応を保ってこそ、最終的にまとめられた、数字が真実を表すようになる。

どのような洗練された会計処理がなされたものであっても、一対一の原則に基づかない経理処理が少しでもあると、それは会社の実態を正しく反映することは出来ない。

おかしいと思われることを指摘することが裏切りであるかのように思わせる雰囲気が社内にあれば、問題は隠蔽されてしまう。

このようにして社内に少しぐらいの不正には目をつぶろうという雰囲気が生まれると、やがて組織全体が膿んでいき、いつか必ず会社の屋台骨を揺るがすほどの問題になる。

資本主義経済における会計の役割

会計において万全を期した管理システムが構築されていれば、人をして不正を起させない。

万が一不正が発生しても、それを最小限のレベルにとどめることが出来る。