IKEAモデル
なぜ世界に進出できたのか
アンダッシュ・ダルヴィッグ 著
企業はただ単に株主に利益を還元するのではなく、より広い意味での価値を提供しようと努めるべきだ。
企業には利益追求を超える社会的使命がある。
小売企業が真の価値を提供するために必要な条件は4つある。
①社会的目標を伴うビジョンと揺るぎない価値観
②取扱商品の幅と価格が競争上の主な差別化要因となるビジネスモデル
③市場リーダーシップ、会社の短期的・長期的目標を決定づけるグローバルな市場ポートフォリオ
④献身的なオーナーによる会社の統率
これら4つの礎はお互いに関連し合い、補い合っている。
ビジョン、価値観、オーナーによる会社の統率は、ビジネスモデルとグローバル化の道筋を大きく左右する。
それらはまた、単なる収益性の高い企業から一歩進んで、より良い社会に貢献する企業になるための必要条件でもある。
イケアは1943年から1972年までの30年をかけてビジネスモデルを築き、それから海外展開に踏み出した。
イケアの出発点はマッチを売る一人の巡回販売員だった。
彼はこのビジネスを通信販売会社に発展させ、時計から鉛筆まで様々な商品を取り扱うようになった。
最終的に、この会社は家具インテリア製品の多国籍コンツェルンとなり、世界各地の店舗を通じて家庭生活に必要なあらゆるものを販売するようになった。
この道筋は、創業者イングヴァル・カンプラードの性格によって導かれた部分が大きい。
コスト意識、決断力、意志力、現実に対応すること、あえて違うことをすること、常に刷新を追求すること、実現に向けて動き続けること、仲間意識、熱意、これらはイケアを形作ってきた価値観である。
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イケアの取扱品目に家具が加わったのは1950年代。
その理由は実に単純で、イケアが創業した町エルムフルト周辺に家具メーカーが多かったからである。
家具を売るためには実物を見せる場所が必要になる。
そこで会社は通信販売ビジネスを実店舗で補うことにし、1953年にエルムフルトに最初の家具ショールームを作った。
家具はかさばり、輸送費がかさむ。
この問題を解決するために、家具のフラットパック化が導入された。
1961年、低価格を売りにするイケアはスウェーデンの家具販売業者にとって無視できない脅威になり、販売業者は家具メーカーに圧力をかけてイケアをボイコットした。
苦境に立たされたイケアはスウェーデン国境の外に出て、ポーランドに新たな製品調達先を見つけた。
こうして、グローバルな製品調達がイケアのコンセプトの重要な要素として加わった。
1965年、ストックホルム郊外に無料駐車場つきの大型店舗を建てた。
開店時のあまりの賑わいに、経営陣はやむを得ず倉庫を開放し、買い物客が自分で商品を運び出せるようにした。
こうしてセルフサービスの倉庫が誕生した。
ここで重要なのは、会社の成長は厳密に計画されていたというよりも、巡り合わせたチャンスを活かすことでもたらされてきたという点だ。
イケアの歴史における決定的な瞬間は、試練がチャンスに転じた時に生じている。
そこで際立っているのが次の2つのこと
①試練や問題を克服する能力
②リスクを負う意欲
イケア最大の強みは、「より快適な毎日を、より多くの方々に」という社会的目標を伴ったビジョンにある。
イケアは、裕福な人にしか買えなかったような質の良い商品を、他の皆にも手が届くようにしようとした。
こうしたイケアの理念は以下のように形になっている。
価格設定: 利益をあげると同時に手頃な価格にするという財務モデルは、会社のビジョンに沿っている。
イケアは粗利益の改善を重視せず、その代わりに売上高を伸ばそうとした。
製品の仕入れ原価を抑える方法を粘り強く探し、コストを最低限に抑え、その結果を消費者に還元した。
機能性:自宅での毎日の暮らしを本当に心地良いものに変えるアイデアの方が、凝ったデザインよりも優先される。
機能性を犠牲にしたデザインは、長い目で見ると顧客喪失につながる。
だからこそ、イケアは収納問題に力を注ぐ。
顧客の参加:顧客は欲しい商品を選び出して代金を払うだけでなく、配送から組立までを引き受ける。
このシステムを用いることでイケアはコストを抑え、さらに販売価格を下げることができる。
社会的ビジョンは、会社の日々の行動において実現され、反映されているのでなければ意味がない。
ある会社が顧客、従業員、サプライヤー等と深く長く続く関係を築きたいなら、何をするかだけでなく、どんな会社がどんなやり方で行うかが重要となる。
真意に基づくビジョンと価値観が形成されると、それらは会社の進む方向、戦略、行動に決定的な影響を与える。
さらに、従業員を惹き付け、各人が能力を最大限に発揮するように働きかける原動力となる。
また、会社と顧客との間に絆を育む。
バリューチェーン管理を通じた差別化
当然ながら、利益と成功を導く秘訣は差別化だ。
多くの小売店は差別化を目標としながらも、結局は皆と同じことを多少うまくやるか、立地の良さでわずかな優位性を獲得する事で辛うじて利益を確保している。
小売店におけるイノベーションは、大抵真似しやすく、差別化の効力は長続きしない。
小売業者が大きな成功をおさめるためには独自の商品レンジを持ち、開発、製造から販売までのバリューチェーン全体を管理下に置く必要がある。
イケアは、バリューチェーン全体を管理する事で、次の5つすべてを実現し、長期にわたる優位性を手にしている。
①デザイン、機能性、値段の割に質が高い(圧倒的なコストパフォーマンス)
②ユニークな北欧風デザイン(よそにはない製品)
③インスピレーション、アイデア、解決策(住まいに関わる問題解決)
④一カ所ですべてが揃う(利便性)
⑤充実した買い物体験(楽しさ)
いくつもの基本的な顧客ニーズを満足させること、またそれを競争相手よりも優れた方法で実現することは、どんなビジネスにおいても成功の要である。