マーケティング戦略論

100円のコーラを1000円で売る方法

永井高尚 著

アメリカの鉄道会社はなぜ衰退したのか?

鉄道の利用者が車やバス、飛行機などの他の輸送手段を使っても、鉄道会社の人たちが気にしなかったから。

原因は鉄道会社自身の考え方にある。

自分たちの事業を輸送事業ではなく、鉄道事業と考えていた。

顧客の要望に100%応えても0点

顧客満足の式

顧客満足は、“顧客が感じた価値”から“事前期待値”を引き算したもの。

つまり、事前期待値を100%満足させる100の価値を提供したとしても、顧客満足は“顧客が感じた価値”から事前期待値を引き算したものだから、100引く100で0点である。

ユーザーの要望が100%正しいとは限らない。むしろ的外れな要望や思い込みもある。

本来あるべき姿を提案し、ユーザーが見過ごしていた問題点を指摘し、それらをいかに解決するか、具体的な解決策も提案する。

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値引きの作法

マーケットリーダーとマーケットチャレンジャー

マーケットリーダーに対して価格勝負で挑戦してはならない。

チャレンジャーが利益ギリギリに削って半額で売り始めた途端にリーダーは7割引きで売り始めることが出来る。

チャレンジャーはさらに値引きをせざるをえず、価格戦争の結果、ビジネスを継続出来なくなる。

マーケットリーダーとチャレンジャーが同じお金をかけて商品を開発して、リーダーがチャレンジャーの3倍売り上げたとすると、リーダーの商品あたりの開発コストはチャレンジャーの三分の一。

だから、リーダーは業界の中で一番低いコストで商品を提供でき、コストリーダーシップをも握っている。

このような会社に価格勝負をしかけるのは自殺行為。

逆に最初にシェアさえ取ってしまえば、コストリーダーシップを握れる。

街の電気屋さんのお客さんのニーズ

街の電気屋さんが提供できて、家電量販店が提供できないものは地元密着型の手厚いサービス。

それが家電量販店との差別化ポイント。

街の電気屋さんがターゲットとすべきお客さんは、家電製品のことが良く分からない中高年層。

バリュープロポジション

顧客が望んでいて、競合他社が提供できない、自社が提供できる価値。

この視点で顧客に提供する商品やサービスを考えないと、顧客のあらゆる要望に対応する羽目になる。

バリュープロポジションの出発点は顧客。

ただし、顧客の言うことを全部受入れれば良い訳ではない。

むしろ、顧客本人も気づいていないような価値を見つけられるかどうか。

顧客が何に価値を感じるか、先ずは徹底的に考える事。

大切なのは顧客のニーズを徹底的に絞り込むこと、そして他社と同じことはやらないこと。

よく考えた上で、実は顧客が必要としていないと思うなら、他社がやっていることは切り捨てても良い。

ほとんどの企業は、時間とコストを掛けて他社と同じ事を一生懸命自社でもやろうとしている。

その結果、際限のない価格競争に突入して買い叩かれ、利益がどんどん少なくなっていく。

歯医者さんもオススメする虫歯予防のガム

キシリトールガムは従来のガムのように“味”や“香り”で勝負するのをやめて、“虫歯予防”という新しい要素を加えて新市場を切り開いた。

キシリトール入りのガムの顧客は歯医者に来る患者。

その人たちがどんなことに価値を感じているか、企業としてそれにどのように応えられるかを徹底的に考えることが大事。

キシリトールのマーケティング担当者は、ある歯科専門の商社マンに出会い、予防歯科こそ歯医者の仕事と考えていた。

そこで、虫歯にならない為に歯医者に行くというビジネスモデルを作り歯医者の賛同を得ていった。

虫歯になってから歯医者に行くのではなく、虫歯にならない為に歯医者に行く。

ここに大きな発想の転換がある。

歯医者さんに予防歯科の考え方が受け入れられれば、虫歯になりにくいキシリトールに賛同してくれる歯医者さんも出てくる。

それにより、キシリトールのプロモーションは本格的に軌道に乗り一気に普及した。

それがさらに予防歯科の市場を広げるという好循環も生まれた。

商品を自社で売る必要はない

すべて自社セールスで対応するのが必ずしも正解とは限らない。

顧客に提供する価値を最大化するために、流通チャネルをどう考えるか。

多くの菓子メーカーが採用しているキシリトールは、日本で販売開始した当初は砂糖よりも高いこともあって、菓子メーカーはあまり乗り気ではなかった。

そこでキシリトールの日本の輸入代理店は、菓子メーカーではなく、影響力の大きい流通業者に話を持っていったところ興味を示した。

薬事法の関係でキシリトール入りガムは「虫歯予防に効く」という効能を直接CMなどで宣伝するることは出来ない。

ガムではなく、キシリトールそのものに着目して、食品素材メーカーとしてシンポジウムを開く等して、キシリトールそのものの効用を訴えた。

つまり、お互いに自分しかできないことをやって、補完し合うことで、キシリトール入りガムは成功した。

100円のコーラを1000円で売る方法

Customer Myopia
目の前のお客さんが言っていることだけを鵜呑みにしてそれに全て対応しようとしてしまい、本当にお客さんが必要としていることに対応出来ておらず、長期的にみるとお客さんが離れていってしまう状態のこと。

リッツカールトンのルームサービスで頼むコーラは1035円

部屋でルームサービスに電話すると「15分お待ちください」と言われ、最適な温度に冷やされ、ライムと氷がついた、この上なく美味しい状態でシルバーのお盆に載ったコーラが運ばれてくる。

これはコーラという液体ではなく、サービスという目に見えない価値を売っているから。

ディスカウントストアで売っているのはコーラという液体そのもの。

同じような商品を他でも売っているので、お客さんは値引きを求める。

だから、徹底的にコストを削る。

これが“プロダクトセリング”

一方リッツカールトンが売っているのは心地よい環境で最高に美味しいコーラを飲めるという“体験”。

これは他では得られない為、顧客は値引きを要求しない。

そのため、コスト削減や規模の大きさは必要なく、とことんまでサービス向上を図る。

これが“バリューセリング”

エブリデー・ロー・プライス戦略

お客さんに“常に最低価格を保証する”という価値を提供している。

低コストで商品を提供するために、こういう会社は大量仕入れや運営効率を上げたりしてとても努力している。

ただし、コストを徹底的に下げて価格勝負する戦略は市場リーダーにしか出来ない。

市場リーダーは市場の中で1社だけ。

なぜ省エネルックは失敗してクールビズは成功したのか

コミュニケーション戦略に一貫性があることが大切。

省エネルックが話題になったのは1979年頃。

当時はターゲットのビジネスパーソンがどう思うか、よく考えなかった。

その一方で話題は先行した。

話題になったのに普及しなかった。

ターゲットを明確にして、目的を決定する。

目的を実現するためのコミュニケーションの方法を設計して、メッセージを伝えるチャネルを選択する。

様々なメディアやイベントといったコミュ二ケーションミックスに予算を配分する。

クールビズが成功した理由は、3年間で80億円も使ったからだけでなく、ちゃんとターゲットの顧客を明確に定義し、目的を決定し、何が課題かを把握した上で、コミュニケーションを行ったから。

新商品は必ず売れない?

イノベータ理論とキャズム理論

新しい商品が世の中に出ると普及段階によってその商品を買う顧客のタイプが異なる。

真っ先に買うのがイノベーター。

その次に買うのがアーリーアダプター。

先行ユーザーのことはあまり気にせずに実際によさそうだったら買う。

実際に先行ユーザーが使ってみて良さが証明されたら買うのがアーリーマジョリティ。

“リスク歓迎型”のアーリーアダプターのお客さんへの売り方と、“リスク重視型”のアーリーマジョリティーのお客さんへの売り方は正反対。

リスク歓迎型にひととおり売った後に、リスク重視型のお客さんに売ることが必要。

両者の間には、キャズムと呼ばれる普及するための大きく深い谷がある。

多くの新商品がこの谷を越えられずに消えていく。

これがキャズム理論。

リスク重視型の見込み客に同じように売ろうと努力してもほとんどが売れない。

セールス戦力が分散してしまう。